>> 09/22>> 黄金のぶどう
マルシェの品ぞろえからも、季節が変わったことに気づく。たとえば、ブドウの種類が増えていたりとか。
フランスで美味しいブドウ、といえば、南仏・moissac産のChasselasという品種。AOCに認定されていて、ちまたでは「raisin d'or=黄金のブドウ」と言われている。ちょうどTVで特集をしていて、こいつは食べてみなくちゃと思っていたら、翌日マルシェで発見。黄金とよばれるだけに、他のブドウより値段も少々高い。といっても、日本のように破格値がつくほどではないけれど。
うすい琥珀がかった果実は、陽に透かすと宝石のように上品に輝く。そして、見かけからは想像できないほど、甘い!
マスカットのような酸味を想像していたら、見事に裏切られた。べたべたとした甘ったるさではなく、はちみつのようなコク。そのあと、軽い余韻を残しながら、すぅっと舌の上で消えてゆく。その潔さがたまらなく上品。これはしばらく、病みつきになりそうだ。
>> 09/20>> 文化とは
国外へ旅行する予定だったのを変更して、パリにとどまる。なぜなら、この週末は「Journees Europeens du Patrimoine」だから。
「Journees Europeens du Patrimoine」とは、フランス各地にある歴史的・文化的に価値のある建物が、特別一般公開される日。パリだけでも、この2日間で200以上の建物が一般公開される。
初期ゴシックの円柱が美しいColleges des Bernardinsこのイベントのポイントは、ふだんは非公開な場所が特別公開されること。部外者禁制のソルボンヌ大学も、大統領官邸も、各国大使館も、この週末はアクセス可。珍しいところでは下水処理場なんかも見学できる。めったにお目にかかれない場所をのぞけるチャンスなので、この日を楽しみにしているパリっ子も多いらしく、TVやラジオはもちろん日常生活でも「Journees Patrimoine、どこに行く?」なんていう会話を耳にする。
エッフェル塔やオペラガルニエのように、常時一般公開している場所も、この日のために特別講義を用意したり、入場無料になったり、エレベーターの機械室に案内したり。いわゆる観光とはちがって、表層ではない、パリの生活や文化や歴史の「芯の部分」を目撃できる。日本の「文化の日」も、このぐらいのスケールでやってほしいものだ。
ラ・ソルボンヌ。 |
まるでコンサートホールのような講堂 |
|
こんな図書館なら、勉強のしがいがあるというもの |
図書館の天井画 |
「サイエンスはまたポエトリーでもある」 |
講堂の壁画。ソルボンヌを中心に、科学・文学・生物学etc...賢者たちは様々な研究にいそしむ |
ルクサンブール公園の、ふだんは非公開の温室 |
世界各地の珍しい蘭が咲き誇る |
蘭の開花は冬だけれど、今回のために特別に栽培されたそう |
L'ecole national d'administration |
|
モザイクのタイル装飾が美しい |
シテ島では、警察庁前の広場で歴代パトカーを展示 |
こう見えても、一応BMV |
1913年の消防車。今でもちゃんと、エンジンがかかる! |
パリに限らずヨーロッパ全てにいえることかもしれないけれど、ここに住む人たちは毎日、こんなに素晴らしい文化に囲まれながら、多かれ少なかれ、そのエッセンスを吸収して生活している。そして、それがごく自然に、立ち居振る舞いや思考や生活習慣となって現れる。
日本で文化のことを語ると、なぜかつい、肩肘張ってしまいがちだけれど、実は文化とは、日常にさりげなく存在するものなのだと、あらためて知る。
>> 09/18>> パリの境界
12区・ナシオン広場。地図で見ると、このあたりはパリの「端っこ」にあたる。
エスカルゴ状のパリ20区は、外側をぐるりと環状線に囲まれている。かつてはこの道路に沿って城壁が建てられ、随所に通行門が設けられていた。ナシオン広場の先にはPorte de Vincennesという駅があるが、これはかつて通行門=Porteがあった証。
ナシオン広場の近くには、2本の塔が並んで建っている。まるで、城壁の外からやってきた来客を出迎えているかのようだ。
気づけば、このあたりの樹木はすでにほんのり色づいている。頭上にも、足元にも、秋の気配。
>> 09/16>> Nuit Blanche
なかなか寝つけない夜のことを、フランス語ではNuit Blancheという。そんな夜のためのキャンドルがこれ。
パリのLigne Blancheというブランドと、NYに拠点を置くアーティストTom Sacheのコラボレーションで、その名もずばり「Nuit Blanche」。言われないと気付かないほどほのかな香りは、爽やかでやわらかく、少し甘い感じが、森の中に入ったときの草いきれを連想させる。
夜の深い時間、灯りを消して、TVも消して、静寂のなかで思考の迷路に埋もれていると、いま世界で目覚めているのは自分一人だけのような気分になる。住み慣れた場所を離れて、異国の街で暮らしてれば、どうしたって感傷に浸ってしまう。ときには必要以上のセンチメンタルに陥って、どうしようもなく孤独を感じることもあるけれど、このキャンドルはそんな危険から私を守ってくれる。
やわらかい香りと、やさしい時間に包まれて。明日もきっと、いい日になる。
>> 09/15>> 夕陽がしずむころ
友人と別れて、オデオンから徒歩で帰路にむかった。その日は久しぶりの雨で、いつもは優雅なノートルダムも、低く立ち込めた雲の下ではしかめっつらをしているようだ。
小雨交じりになってきたところで、傘を閉じる。視界が開けた瞬間、何かが目にとまったのを感じて見渡すと、そこにその本屋があった。
|
|
映画「Before Sunset」で、ジェシーとセリーヌが再開した本屋、Shakespear & Co.。
映画のなかで2人が交わした会話は、すべてここから始まった。
薄暗い店内は、床から天井までびっしりと本が積み上げられ、建物そのものが本の山でできているようだ。最近出版されたばかりの新刊も、茶色く変色した古本も、沈黙のなかで自らの語るべき言葉を読者に投げかける。その声なき声にみちびかれ、人々は迷路のような書棚の中から必要な1冊を見つけ出す。
|
|
|
2階には小さな読書コーナー |
本を購入すると、スタンプを押してくれる |
あの映画が好きだった私にとって、パリの中では特別な場所。探そうと思って探したわけではなかった分、つい運命的なものを感じてしまう。外に出たころには雨があがって、ちょうど映画のように、沈みかける太陽がノートルダムをオレンジ色に染めていた。