>> 03/21>> カルティエ・ラタンの夜
夜のカルティエ・ラタンは少し独特だ。学生やアーティストたちがテーブルを囲んで、夜が更けるのも忘れて語らう。けれどおなじ賑やかなのでも、そこらじゅうガヤガヤしているマレとは違って、外に出ると車の往来は少なく、石畳の上には静寂がただよって、むしろ厳粛ですらある。パリジャン・パリジェンヌたちの間でも5区は特別な場所で、「私の町=Mon Quartier」に挙げる人も多い。
狭い路地を抜けてゆくと、坂道のむこうにパンテオン。今日は月が明るくて、夜空にくっきり浮かび上がるドーム屋根は、いつもより厳かに見えた。
>> 03/19>> Pariの厨房から
Etienne Marcelは、プロの料理人も通う調理用具の専門街。パリのなかの合羽橋、とでもいおうか。合羽橋と違うのは、ここが流行の発信地でもあること。いかにも問屋街な雰囲気はなく、ファッショナブルな若者が集まる街。しゃれたカフェやアパレルショップに並んで、ぴっかぴかに磨き上げられた鍋や厨房用品がショウウィンドウを飾る。
Etienne Marcelに限らず、デパートやスーパーマーケットにも言えることだが、ヨーロッパの他の都市と比較すると、パリではキッチン用品のコーナーが驚くほど充実している。種類が豊富、というわけではなく、「こんなもの一般家庭に必要か?」というような、専門的な用具がたくさん置いてある。それがEtienne Marcelともなればなおのこと。マレ地区のインテリアショップのように、デザイン系のキッチン用品は見つからないけれど、微妙にサイズの異なる鍋やナイフの数々、細工のこまかなケーキ型、業務用のパッケージボックスetc... さらには「これって何に使うんだろう?」みたいなアイテムがごろごろ見つかる。高級店でよく見るようなショコラの抜き型も手に入るし、特注の焼き型をオーダーすることも可能だ。実際に使うかどうかはさておき、「これがフランスの食文化だ!」と思うと、端から端まで全部買って帰りたくなる。
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つねづね「格好から入る」のは大事だ、と思っている。女性なら、そでを通す服によって気分がガラリと変わる、というのは周知の通り。料理だって同じこと。鋼色のフライパンで料理すれば、たとえそれがシンプルなチキンソテーであろうと生姜焼きであろうと、特別な一品のように見えてくる。塩をふる手つきも、いつもより勿体ぶってみたくなる。キッチンは一種のシアターで、調理する人は味覚のドラマを創る演出家。視覚効果が観客を圧倒するように、目から入る喜び=visual pleasureは、最大の調味料になるのだ。