>> 12/14>> Bienvenue Gambetta
NYのアーティストたちがSOHOからグリニッジヴィレッジへ、グリニッジヴィレッジからブルックリンへと流れていったように、パリでもアーティストたちが多く集まるエリアは移動する。観光客がつめかけるようになったマレからバスティーユ、オベルカンフ、パルマンティエ、シャロンヌ、ナシオン・・・そして今や、パリの東端にかぎりなく近い20区・ガンベッタにまで到達している。
一見するとレジデンス・エリア、だけど生鮮食品店のとなりにしゃれた雑貨店があったりする。1本小道を入るとなかなか雰囲気のいいワインビストロがあって、ちょっと趣向を凝らしたネオフレンチが食べられる。パリの端っこ、というロケーションに加え、かつて20区が庶民的なエリアだった事実を考えると、ここの生活クオリティはかなり上出来、ずば抜けている。
ピレネー通りにあるブーランジェリーLa flute Ganaは、「パン屋」というより「パン工房」という言葉がしっくりくる。銅製のお菓子の型が壁を飾り、ショウケースの中には芸術的なヴィノワズリーがお客の注文を待つ。レジ奥では、(日本の蕎麦打ち職人のように)気難しそうな店主が粉にまみれて生地を練る。郊外には2店舗あるのに、パリ支店はガンベッタだけ。
週末の夜はFleche d'or か Bervilloise。かつて鉄道の駅だった建物を改装したFleche d'orは少し退廃的な香りがして、Bervilloiseは遊びなれた大人の社交場。どちらもダンスフロアのほかにレストランとラウンジが併設してあって、おしゃべり好きなフランス人にはうってつけ。どちらも週末の夜には長い行列ができる。
ここの住人の多くは、若いクリエイターやアクターや写真家やWebデザイナーといった人々。過去の作家や画家たちが、モンマルトルやモンパルナスのカフェで夜な夜な談笑していた、あの当時の伝統はいま、ガンベッタに引き継がれている。バーに集まる面々はいつも同じ、誰もが顔なじみ。自分もいつかその中に混じることができるだろうか、と羨ましげに眺める。
>> 12/12>> Twinkle Twinkle
カルチェラタンからノートルダムを通って、歩いて帰る。シテ島の細い路地は、この時間になるともう真っ暗だ。セーヌ川からの冷気は、手袋を忘れた掌を容赦なく刺す。
川岸に到着したところで、coup de coeur。
この時期、パリは光に包まれる。「Paris Illumine Paris」--商業的な東京とは違って、街全体をあげての一大プロジェクト。イルミネーションはあくまでも脇役に徹して、そこに集う人々、ノエルを待ちわびるパリの日常をやさしく照らす。
Hotel du Villeのイルミネーションは、夜空にきらめく星のごとく。特別な音響はなく、静かにまたたく。冬は大気が澄んでいるから、天体観測にはぴったりなんだ、と、むかし誰かが言っていたのを思い出す。寒さを忘れて、しばし見とれる。
エントランス前の広場には、まもなくスケートリンクが登場する予定だ。
>> 12/11>> カフェの時間ですよ
日本では紅茶派だった私も、いまはフランス人にならって自宅でカフェ。濃いめに淹れたカフェの傍らには、スプーンの形をしたサブレ。「パリ一番のブーランジェリー」と評判の、ポワラーヌの裏アイテム。
FIGAROで大絶賛されたポワラーヌのパンは、あまりの評判ゆえ、いまやモノプリというスーパーでも買えるようになった。そのせいか、6区・Cherche midi通りにある本店では、パンよりもサクサクサブレ目当ての人が多い。
定番の丸いサブレと生地は同じ。形が違うだけで。カフェの時間がずいぶん贅沢になるから不思議だ。
フランス人のいいところは、時間にせかせか追われないこと。忙しくしている人もいることはいるが、それでも、カフェを飲みながら友人とおしゃべりする時間は欠かさない。カフェ1杯で(しかもデミタス)ずいぶん長話するものだ、と関心する。彼らにとってそれは、カフェを飲む「行為」ではなく、カフェを飲みながら語り合う「時間」なのだ。
>> 12/09>> 白のむこう
2008年も残りわずか。パリの滞在期間も数えるほどになった。
そして今日、雪が降った。
雪の降るスピードはどこに行っても変わらない。ただ、のんびりしたパリのライフスタイルの中では、ずいぶん忙しなく見える。
磨き上げた大理石のように真っ白な空から、はらはらと雪の花がふりそそぎ、乳白色の建物との境界をあいまいにする。
目を凝らしても凝らしても、果てが見えないほどの白。そこに、パリの街並が溶けてゆく。
大粒の雪は、いつのまにか穏やかな雨に変わっている。おそらく夜になるまえに止んでしまうだろう。
このままずっと振り続ければいいのに。
このまま時が止まれば。
パリのアパルトマンの窓から、限りなく広がる白を眺める。
>> 12/08>> 磯の香り、煙の薫り
17区・Porte de Champerretteで行われた「Salon Saveur」は、食の見本市とでも言おうか、フランス・イタリア各地の特産物がわんさと集まる。味覚といえばフランスでもシーズンは秋なのだけれど、いまはノエル準備期間。日本人がおせちの材料を買い集めるように、ここでノエルのごちそうを手に入れる。
この日はちょうど最終日で、どこもたたき売り状態。お客のほうも、人目を気にすることなくドシドシ試食するし、売る方も気前よく試食させる。この寛大さはフランスならではだろう。
|
ひょうたん? いえいえ、カチョカヴァッロです |
いかにも・・・ですが |
|
ボルドー名物カヌレ専門店Lemoineは、早々にsold out |
これぞまさに「ハイ、チーズ」 |
どこからか、トントントン、と音がする。耳をそばだてて近づいてみると、バター専門ブースを発見。しかも、ブルターニュの有名なクレマリーBordier!
ここのバターが素晴らしいのは、手練りであること。サン・マロ本店では注文を受けると、バターの塊から注文分を計りとって大理石の台にのせ、木ベラで叩く。こうすることで空気をたっぷり含ませ、滑らかなバターができあがる。
demi-selは塩分50%とはいえ、通常のバターと比べるとかなり塩が濃い。さすがは海の郷ブルターニュ。この塩気のおかげで、乳成分の甘みが引き立つ。
海藻が混ぜ込まれたものは、磯の香りがかなり強烈。ふと日本のワカメを懐かしく思い出す。「魚のポワレに合いますよ」と店員さんが教えてくれたけれど、リゾットにしてもきっと美味しいはずだ。
買いすぎと分かっていても、誘惑にはあらがえず・・・。意外な発見は、fume sel。薫製の香りのするバターなんて、食べたことがない。この香りだけでワインが進みそうだ。パンと合わせると、生ハムをかじっているような気分になる。
それにしても、この滑らかさ!シルクのような、というたとえがぴったりくる。そもそもフランスのバターはどれも、冷蔵庫から出してすぐパンに塗れるほど柔らかくなるのだが、Bordierのバターはさらにキメが細かい。舌の上で、脂分がきれいにすぅっと溶けてゆく。口に広がる甘いミルクの香りだけが、バターの存在をほのめかす。
この夏、ここのバターを食べたいがためにわざわざサン・マロまで行ったのに、あいにく日曜でお店が閉まっていて、残念な思いをしたことがあった。まさかパリで出会えるとは。一足早いクリスマス・プレゼント、ということにしておこう。